本編
新しいアパートに引っ越してきた俺は、隣の部屋の住人が気になっていた。彼はいつも深夜に部屋を出て行く。毎晩、廊下で彼の靴音が聞こえる。けれども、彼が戻ってくる音は聞こえないんだ。
「深夜にどこへ行くんだろう?」
ある夜、好奇心に負けて彼が出て行った後、こっそりと廊下に出た。廊下の突き当たりの非常階段の扉がゆっくり閉まるのを見た。俺は彼の後を追い、階段を降りた。
下の階では、彼の足音が止まっていた。しかし、どの部屋の前にも彼の姿はない。代わりに、その階のある部屋の前には、いくつもの花束が積まれていた。その部屋は封鎖されていて、ひどい事件があったらしい。
「何があったんだろう?」
翌日、管理人に聞いてみると、その部屋で以前住んでいた人が亡くなったという。自殺だったらしい。でも、その部屋はまだ新しい住人が決まっていない。
その晩、また彼の足音が聞こえた。今度は彼の部屋の前まで行ってみた。ドアに耳を澄ますと、中から彼の声が聞こえる。
「ごめんな、毎晩こんな時間になって……」
彼の声は悲しげだった。しかし、誰も答える声はない。ただ彼の一方的な話が続く。
(一体、彼は誰と話してるんだ……)
隣の住人が毎晩非常階段を降り、以前自殺した人が住んでいた部屋に花を捧げていることにあります。彼は自分の部屋で亡くなった人と話しているようですが、実際は誰もいない。彼は亡くなった人に対する未練や罪悪感に苛まれているのかもしれません。