本編
夜遅く、最後のバスに乗った。車内はほぼ空っぽ。後ろの方に座る老人だけが目立った。彼は時々、隣の席に置かれた小さな箱を見て、ニヤリと笑う。なんだろうと思いつつ、俺は眠気に耐えながら目を閉じた。
(……もう降りるところだろうか)
目を覚ますと、老人の姿はなかった。ただ、あの小さな箱が席に残されている。拾い主を探そうとバス運転手に声をかけたが、「乗客はあなただけだった」と言われる。
箱を開けると、中には血まみれの小さな歯がいくつか……。そこで気づいた。バスの中で聞こえていた子供の泣き声。それは、始めから俺の頭の中だけのものだった。
不気味な老人が消え、残されたのは血まみれの子供の歯。バスの中で聞こえていた子供の泣き声が、実は幻聴だったことが明らかになる。これは、老人が何者か、または何をしていたのか、そして主人公がなぜ子供の泣き声を聞いていたのかという恐怖を喚起する。