あらすじ
終電間際の無人駅で、ホームに横たわるホームレスの姿を見た主人公。彼の存在が放つ不気味な雰囲気に、奇妙な出来事が起こり始める。
本編
夜も深まり、街の喧騒も遠のく頃、私はいつものように終電で家路についていた。ある駅に着くと、ホームの端に見慣れない姿があった。ホームレスの男性が、薄汚れた布団を敷いて横たわっている。駅の無人さが彼の存在をより際立たせていた。
「こんなところで寝るなんて、大丈夫かな?」と思いつつ、私は彼を避けて歩き始めた。しかし、一歩、また一歩と彼に近づくにつれ、何とも言えない違和感が襲ってきた。ホームレスの男性は静かに寝息を立てているように見えたが、その周囲からは異様な冷気が漂っていた。
(なんだろう、この感じ……)と思考を巡らせていると、突然ホームの照明がチラつき始めた。驚いて辺りを見回すと、彼の周囲だけが不自然に暗くなっていた。そして、その暗闇の中から、何かがうごめいているような錯覚に陥った。
「大丈夫ですか?」と声をかけようとした瞬間、ホームレスの男性が突如として目を見開いた。彼の目は、通常の人間のそれとは異なり、真っ黒で底知れぬ深さを秘めていた。私は恐怖に凍りつき、声も出せなくなっていた。
その時、遠くで電車がアナウンスされた。終電が近づいている。しかし、私の足は動かない。ホームレスの男性は、じっと私を見つめ、微笑んでいるようにも見えた。その瞬間、風が吹き、彼の周りの暗闇が一瞬にして消え去った。
電車がホームに滑り込むと、私は我に返り、急いでその場を離れた。振り返ると、そこには誰もいなかった。彼はどこにも見えない。ただ、彼がいた場所には古びた布団だけが残されていた。
(一体、あれは何だったんだろう……)
家に帰るまでの間、私の心はずっと冷たい恐怖で満たされていた。