あらすじ
スマホ依存の青年が、歩きながらスマホを見る癖により、不可解な出来事に巻き込まれる物語。
本編
「またか…」と、自分のスマホ依存に苛立ちながら、僕はいつものように画面に目を落として歩いた。道行く人々が肩をすれ違うたびに、ちょっとした罪悪感が心をよぎる。だけど、スマホから目を離すことができない。友達の投稿、ニュース、無意味な動画。画面は次から次へと新しい情報を吐き出していく。
ある夜、いつものように歩きスマホをしていると、画面に見慣れない通知が表示された。「これは何だ?」と思い、指で通知を開いた瞬間、辺りの景色が変わった。見慣れた街の風景ではなく、どこか古びた廃墟のような場所にいた。
「どうしてここに…?」と戸惑いながら辺りを見渡すと、画面には「今、あなたは別の世界にいます」というメッセージが。これは一体何の冗談だろうかと思いつつも、恐怖が僕を襲った。
(これは夢なのか?それとも…)
そこは静かで、時折風が廃墟を通り抜ける音だけが聞こえた。スマホの画面は再び通知を表示し、「戻るには…」という文字が見えたが、その続きは表示されない。画面を何度もタップしても、何も変わらない。
僕は廃墟の中を歩き始めた。すると、遠くから人の声のようなものが聞こえてきた。しかし、声の方向に進むと、そこには誰もいなかった。ただ、壁には不気味な落書きが…「スマホを見るな」と。
「何これ…?」
再びスマホを見ると、画面は真っ暗で、何も映らない。恐怖で身体が震えた。僕は必死になってスマホを操作しようとしたが、全く反応しない。
(これが罰なのか?)
不安と恐怖に駆られながらも、廃墟の中をさまよい続けた。やがて、スマホが振動し始め、画面には「戻る方法」と表示された。しかしその瞬間…
画面が再び消えた。僕は焦りと絶望に包まれながら、廃墟の中を彷徨い続けた。窓から外を見ると、星も月もない真っ黒な空。ここは一体どこなのか?時間の感覚すら失い始めていた。
しばらく歩き続けると、ふと、スマホの画面が明るく光り始めた。画面には地図が表示されており、一つの点が点滅している。「これは…もしかして出口?」という希望を胸に、地図を頼りに進んでいく。
途中、再び壁に書かれた落書きが目に入った。「見るな」という言葉が、どことなく嘲るように感じられた。しかし、今はそれどころではない。僕はただ、元の世界に戻りたい一心だった。
地図に示された場所にたどり着くと、そこには大きな鏡が一枚立っていた。鏡を見ると、そこにはスマホを手にした自分の姿が映っている。しかし、何かが違う。その姿はどこか冷たく、無機質だった。
(これが、俺…?)
すると、スマホの画面にメッセージが表示された。「現実に戻るには、この鏡を越えなければならない。ただし、一度越えたら、二度とここには戻れない。」
僕は躊躇いながらも、鏡に手を触れた。その瞬間、強い光が全てを覆い、意識が遠のいていった。
目が覚めると、僕はいつもの街の中にいた。まわりはいつもの風景。人々が行き交い、車が行き来している。しかし、手にはもうスマホはなかった。
スマホがなくなったことで、初めて周りの世界が見えたような気がした。空は青く、木々は緑豊かだ。僕は深く息を吸い込み、新たな一歩を踏み出した。