あらすじ
待ち合わせまでの時間を潰すために入った古びた喫茶店。一人の客と店員しかいない静かな店内で、主人公は不可解な出来事に遭遇する。
本編
雨の午後、私は友人との待ち合わせ時間まであと一時間あった。ふと目についたのは、古びた看板を掲げる小さな喫茶店だった。「ここで時間を潰そう」と思い、店に入った。
店内は思いのほか静かで、角のテーブルに座る一人の老紳士と、カウンターの後ろで何かを読んでいる店員だけがいた。壁には古い時計がくるくると音を立てていた。
「コーヒーを一つ」と注文し、窓際の席に座った。雨が窓を叩く音が心地よかった。ふと、老紳士が立ち上がり、店を出て行くのが目に留まった。彼が出て行くと同時に、店の雰囲気が一変した。時計の音が止まり、店内が異様な静寂に包まれた。
(何かおかしい…)そう感じた瞬間、私の目の前に現れたのは、さっきの老紳士だった。「あなたに会いに来たのよ」と彼は言った。私は彼を知らない。彼は私に向かって微笑みながら、何かを話し始めた。
彼の話は奇妙で、この喫茶店の歴史や、過去に訪れた人々の話をしていた。しかしその話には続きがあるようでした。
彼の話は、まるで昔の友人について話すかのように親密だった。彼は「この店には特別な力があるんだ」と言い、壁の古い写真を指差した。その写真には、今と全く変わらない店の様子と、笑顔の人々が写っていた。
「この店は、過去と現在をつなぐ場所なんだよ」と老紳士は静かに語り続けた。彼の言葉に耳を傾けているうちに、店内の時間がゆっくり流れているような感覚に陥った。
その時、カウンターの店員が私に声をかけた。「お客様、大丈夫ですか?」彼女の声で我に返ると、老紳士の姿はどこにもなかった。時計の音が再び聞こえ始め、店の雰囲気も元に戻っていた。
「あの老紳士は…」と私が尋ねると、店員は首を傾げ、「今日はあなたが最初のお客様ですよ」と答えた。その言葉に、私は混乱した。窓の外はまだ雨が降っており、時計は今朝の時間を示していた。
(これは一体…?)と思いながら店を出た。外に出ると、友人からのメッセージが届いていた。「もうすぐそこに着くよ」という内容だった。
その後、私は何度かその喫茶店を訪れたが、老紳士の姿を見ることはなかった。しかし、その店の静かな雰囲気と、時折感じる不思議な感覚は変わらなかった。